m3.com 新型インフルエンザ「あの論文は二重の意味で衝撃だった」

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m3.com 10/28号 「あの論文は二重の意味で衝撃だった」、自治医大・森澤氏
2009年10月28日
 「あの論文は二重の意味で、衝撃だった。臨床医学のレベルで日本は中国にはるかに及ばないこと、またドラックラグが深刻であり、日本のワクチン戦略が世界標準から大幅にずれていることが浮き彫りになったからだ」

 こう語るのは、自治医科大学感染免疫学講座・臨床感染症学部門准教授の森澤雄司氏。森澤氏は厚生労働省新型インフルエンザワクチンに関する意見交換会などで、専門家の立場から積極的に発言されています。ワクチンをめぐる最近の動向などについて、インタビューしましたので、『方針転換は不可避、「分からない」を受け入れるべき--自治医科大学・森澤雄司氏に聞く』をお読みください。

 「あの論文」とは、NEJM誌に、10月21日に掲載された論文、「A Novel Influenza A(H1N1) Vaccine in Various Age Groups」(原文はこちら)。中国で2200人を対象に、新型インフルエンザワクチンの有効性や安全性を調べるために実施された、プラセボ対照のランダム化比較試験。3歳から77歳を年齢別に4群に分けて、1回接種と2回接種、アジュバンドの有無などによる抗体価の変化を調べています。研究を実施したのは、中国江蘇省をはじめとする行政機関、Southeast universityなど。ワクチンを製造したのは、中国のHualan Biological Bacterin Company。
 
 森澤氏は次のように続けます。

 「日本では200人という規模で臨床試験をやっただけ(中間結果が報告されたのは10月16日)。それに対して、中国では臨床試験の結果が既にNEJMに掲載されている。もう率直に言って、話にならない。また、従来、感染症の領域ではドラックラグはあまり問題になっていなかったが、今回の新型インフルエンザでは、急に流行が開始し、早急な対応を求められる事態になり、ドラックラグが強く認識されるようになった。

 中国で今回の試験が可能だったのは、ワクチンを海外に売ろうという意識を国策としてきちんと持っているからだ。ワクチン行政がしっかりしている。これに対して、日本ではワクチンを作っているのは小規模のメーカー。行政が企業を守り、護送船団でがんばるという発想はもうあり得ないはずなのに、まだやっている。今の状況は、そのようにしか見えない。ワクチンを作るのであれば、ワクチンを輸出するくらいの心意気、ビジョンが必要なのではないか。

 そもそも国産ワクチンと輸入ワクチンを区別して考えているのは、恐らく日本だけ。この考え自体が、世界標準からもはや大幅にずれている。

 医療現場では「有効な薬が使用できれば良い」と考えるが、それを日本の医療現場が政策提言する余裕はない。医療崩壊するかもしれないところで政策提言は無理。そうした中での話なので、行政にはより戦略性が求められる」

 森澤氏の指摘の通り、医療現場では人手不足の折、診療現場が多忙になり、臨床研究に割く時間が少なくなっているのが現状。日本製薬工業協会の2008年11月のニューズレターでは、主要医学誌の論文数を調べた調査に基づき、「日本は、臨床研究分野では、2002年まで12番目であったものが2003年以降は18番目とさらに順位を下げている一方、対照的に中国が論文数を大きく伸ばしている」と報告しています(JPMA News Letter No.128)。

 現実に医療機関には、新型インフルエンザの患者が多数訪れています。また今後、「優先接種対象者証明書」の発行や、実際のワクチン接種も本格化するなど、多忙さが増すばかりで、状況が改善されるメドが立っていません。

前政権時の対応でしたが、新型インフルエンザが世界的に蔓延している状態にもかかわらず意味のない空港での検閲で、肝心な医療供給体制の確立を遅らせた日本の政策は、世界中から冷ややかな目で見られているようでした。

民主党政権に変わってからも、ワクチン接種回数問題で現場は大混乱しました。いつものことですが、結果的に患者さん(国民)が犠牲となる結果にならいないよう、末端の医療従事者がみんなの奮闘にかかっているようです。



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